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入社したら書こう。「あらかじめ退職願」のすすめ。

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「えーせっかく入ったのに?」と思ったあなた、安心してください。これは、入社した会社なんかいますぐ辞めちまえという話ではありません。入社した会社での仕事人生を充実させるために、「あらかじめ退職願」を書いておくといいですよという話です。通常の退職願とは違い、あらかじめ書いておく退職願なので「あらかじめ退職願」。2024年の6月に27年間働いた電通を退社し、現在フリーのコピーライターとして活動している僕ですが、電通に入社した28年前のことを思い返すと、これはやっておけば良かったなぁと思うのです。

入社は、退社へのカウントダウンの始まり。

マイナビ転職 キャリア転職研究所より

マイナビ転職の調査によれば、2023年4月に新卒入社した会社員に「今の会社であと何年働くか」と尋ねたところ、「定年まで」と答えた人は19.1%でした。2025年4月入社の方々だと、もう少し低い数字になるでしょうか。多くの人にとって、新卒で入社した会社は、定年まで勤め上げる会社ではなく、これから働くいくつかの会社の1つ目になるはずです。入社は、退社へのカウントダウンの始まりです。これからの仕事人生を充実させるためにも、「自分はこの会社で何をするのか→自分はいつまでこの会社にいるのか」を早めに考えておいた方がいいですよね。

会社にしがみつく人にならないために。

「自分はこの会社で何をするのか→自分はいつまでこの会社にいるのか」を早めに考えておいた方がいいのはなぜか。それは、会社にしがみつく人にならないためです。会社では、学校のように自動的に次のステップに進むことがありません。小学校で6年間。中学で3年間。高校で3年間。大学で4年間。これまでは何年か経ったら、みんな一緒に次のステップに進んできました。人によっては留年したり浪人することもありますが「居心地がいいので中学生10年目です」という人はいませんよね。このような何年かに一度の強制的な環境変化がないのが、会社の難しいところなのです。希望に燃えて入社した人が、一生懸命仕事をしているうちに、いつの間にか会社が居心地のいい場所になり、気付かないうちに楽をし始め、同じ仕事の繰り返しになり、成長が止まり、若手にどんどん抜かれ、転職する能力も勇気もなくなり、会社にしがみつく人になり、窓際に追いやられながら定年を迎える。ということがよくあります。自分は絶対にそうはならないと誰もが思っていますが、一定数、必ずなります。いやいやそれでいいんだ。自分は定年まで勤め上げるためにこの会社を選んだんだと思っている方は、ここから先を読む必要はありませんが、そうではない方は、ぜひこの先をお読みください。

キャリアを自分のものに。

「あらかじめ退職願」を書くのは、キャリアを自分のものにするためです。配属や異動、転勤、昇格といった人事は、自分の思うようにいかないことがほとんどです。でもだからこそ、自分なりのキャリア形成のイメージを持っておかないと、なんとなく年月を重ねてしまい、極めて限られた選択肢しか残されていない状況に追い込まれてしまうのです。キャリアオーナーシップという言葉があります。個人が生涯のキャリアにおいて「どうありたいか」を意識し、その実現に向けて主体的に行動するという意味です。さきほど「自分はこの会社で何をするのか→自分はいつまでこの会社にいるのか」を早めに考えておいた方がいいのは、会社にしがみつく人にならないためだと書きました。会社にしがみつく人の反対が、キャリアオーナーシップのある人です。キャリアオーナーシップを持つための方法は色々ありますが、「あらかじめ退職願」は、有効な方法の一つです。

会社は、お金をもらいながら学べる学校。

ところで、会社とは何でしょうか?人によっていろんな定義があると思いますが、僕は「会社は、お金をもらいながら学べる学校」だと思っています。大学まではお金を払って学びましたが、会社は学びながらお金をもらえるのです。こんなに素晴らしいことはありません。では何を学ぶのか。それは、社会を生き抜く方法です。ソーシャルサバイバル術と言ってもいいかもしれません。ソーシャルサバイバル術とは、もう少し具体的にいうと「人よりも上手にできる何らかの技術を持ち、その技術でお金を稼いで生活していく方法」です。社会には、いろんな会社がありますが、どの会社に入っても、このソーシャルサバイバル術が学べるはずです。仕事とは「普通の人にとっては難しかったり面倒なことを代わりにやることで喜んでもらい、その対価としてお金をいただく」行為です。もっと喜んでもらうためにはどうすればいいのか。もっと効率よくたくさんのお金をいただくためにはどうすればいいのか。この試行錯誤を日々繰り返すことで、ソーシャルサバイバル術を学んでいくのが、会社という場所なのです。しかもそれを、お金をもらいながらできるんですね。ちなみに僕が電通で学んだのは、「コピーライティングの技術でお金を稼いで生活していく方法」でした。あなたが入社した会社では、どんなソーシャルサバイバル術が学べそうですか?

あらかじめ書いておく退職願だから「あらかじめ退職願」。

さて退職願です。通常の退職願とは違い、あらかじめ書いておく退職願なので、「あらかじめ退職願」という名前をつけました。通常の退職願と「あらかじめ退職願」は、内容がまったく違います。ネットで調べると、退職願のフォーマットがたくさんあります。文面はだいたい以下のようなものです。

このたび、一身上の都合により、勝手ながら、
二〇××年×月×日をもって退社いたしたく、
ここにお願い申し上げます。

いたってシンプルですね。
あらかじめ退職願は、それとは違います。たとえばこんな感じ。

このたび、電通を退社する決心をいたしました。
なるべく長くコピーライターとして活動したいと思い、
だとすると定年まで電通にいてから開業するのではなく、
早めに個人のブランドで勝負していくべきだと考えました。
2024年6月末に退社し、翌月から個人事業主として
引き続きコピーライターをやってまいります。
電通という組織を飛び出し、個人で勝負してみよう。
そう思えるようになったのは、
電通でコピーライターという職に就かせていただき、
職業的にも人間的にも鍛えていただいたからです。
また広告コピーにとどまらず、
コピーライターの領域拡張に挑戦させていただけたことで、
自分のキャリアの可能性が大きく開かれました。
心から感謝しております。
お世話になった電通には外から恩返しを。
そして電通にいてはできなかったことをやっていきます。
具体的には、言葉のことで困っている人の支えになる、
町のお医者さんのようなことを考えています。
以上、簡単ではございますが、
退職願とさせていただきます。
なにとぞよろしくお願いいたします。

あらかじめ退職願に書くことは以下の5つです。
①辞める理由
②退社日
③次に何をするか
④この会社で学べたこと
⑤会社への感謝

これから働く会社なので、基本的にポジティブな内容であるべきだと思います。この会社が嫌で辞めるのではなく、この会社でやりたいことが終わったから辞めるという内容ですね。入社したての人には、その会社の仕事の本当のところはわかりません。OBOG訪問で得た知識くらいしかないでしょう。それでも、数年後に到達していたい理想の自分をイメージしながら、ひとまず書いてみることです。①辞める理由 ②退社日 ③次に何をするか ④この会社で学べたこと ⑤会社への感謝 すべて自由です。人に見せるものではありませんから、夢を持って、正直に、自分の考えを言語化してみてください。いやいやそれでも難しいよという方は、さきほどの「自分はこの会社で何をするのか→自分はいつまでこの会社にいるのか」を考えてみてください。あなたが面接で話した「この会社でやりたいこと」「この会社で成長したい自分」が叶ったとしたら?それは何年後くらいにやってきてほしい?というふうに考えていくと、書けるのではないでしょうか。

入社後すぐに書かなきゃダメ?

あらかじめ退職願を書くおすすめのタイミングは、研修が終わって配属先が決まった時です。入社式が終わるやいなや、さあ書くぞと思っても、配属先も決まっていない状態で書くのは有効ではありません。研修で会社の歴史や概要を学び、配属先が決まれば、この会社における自分の未来はある程度イメージできるはずです。もちろん、入社して数年がたった方も、今からでも遅くありません。ぜひ書いてみてください。ちなみに僕が退職届を初めて書いたのは、2024年の正月明け。退社の半年前です。いま思うと遅いですね。電通の仕事が楽しかったこともあり、ふと気がつくと50歳でした。自分の電通人生については1mmも後悔していませんが、新入社員の頃に「あらかじめ退職願」を書いておけば、人生の選択肢はもっと広がっていただろうなと思います。

「あらかじめ退職願」はアップデートしていくもの。

働きながら会社のことがわかってくると、気持ちが変化してくることは当然あります。いい意味でも、悪い意味でも、思ってたのと全然違う!ということがたくさんあるでしょう。したがって、「あらかじめ退職願」は、どんどん書き換えていくことが大切です。オススメは一年に一度、年末か年度末に、「あらかじめ退職願」を読んでみて、なんか違うなと思ったら、書き換えるのです。今の会社でのキャリアを積めば積むほど、「あらかじめ退職願」はリアルで力強いものになっていくはずです。ちなみに、「あらかじめ退職願」は、他人には見られないようにしてください。「この人は辞めることを決めている」と会社に知られることは、少なくともその会社におけるキャリアのプラスにはならないからです。「あらかじめ退職願」は、自分だけが知っている、自分の未来設計図。あなた専用のお守りです。会社のパソコンではなく、家のパソコンか自分のスマホで書くといいと思います。

ソーシャルサバイバル術の基本「人を動かす力」

コピーライター志望かどうかに関わらず、若い人から「何か読んだ方がいい本はありますか」と聞かれたら、この一冊をよくオススメしています。『人を動かす(D・カーネギー)』。会社の仕事で、自分一人で完結するものはほとんどありません。同じ部署の人、違う部署の人。先輩、後輩。社内の人、社外の人。実に多様な人と関わりながら仕事をすることになります。そこで重要になってくるのが、人を動かす力です。動かすのは、部下や後輩だけではありません。先輩や上司を動かさなければならない場面が本当にたくさんあります。たとえば、仕事でわからないことを先輩に質問して教えてもらうとき、先輩を動かさなければなりません。打ち合わせで自分の企画を説明して上司に承認してもらうとき、上司を動かさなければなりません。いかに気持ちよく、お互いの利益になる方向へ向かって、相手に動いていただくか。これができる人は仕事が楽しくなりますし、できない人にとって仕事は苦痛の連続でしょう。人を動かす力は、ソーシャルサバイバル術のキホンのキです。ぜひ、早いタイミングで学び、仕事の中で実践していくことをオススメします。どうすればいいかは、『人を動かす(D・カーネギー)』に全部書いてあります。

いかがでしたでしょうか。「あらかじめ退職願」を通じて、あなたの仕事人生が充実したものになることを願っています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。あなたの人生にとって少しでもプラスになる情報をお届けできたらうれしいです。ではまた。

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