4月7日。両国国技館で行われた、クリエイティブな人材を育成する専門スクール『バンタン』の入学式に、粗品さんがサプライズ登壇しました。そのメッセージに感銘を受けたので、ここに記録しておくとともに、自分の好きな気持ちを形に残しておきたいと思いました。
まずは全文です。4月7日時点でネットには映像・音声データが出ておらず、テキストのみが流通しているようです。そのテキストの中で、てにをは等で何ヵ所か「?」という部分があり、自分なりに解釈して整えさせていただいたのが以下のものです。
どうも粗品です。よろしくお願いします。ありがとうございます。必ず、今日の期待と希望に満ちた純度の高い自分の気持ちに救われる時が来ますので、思い出してください。大物になってやる。人気者になってやる。この道で成功する。好きなことでご飯を食べていく。いろんな気持ちが混在していると思いますが、今感じているこの気持ちを、どうしても忘れてしまいそうになります。長くやっていればやっているほど、忘れてしまいそうになります。そんな時に、今日の気持ちを思い出してほしいと思います。メディア各社が入っております。少し言葉を緩めますが、パンチの効いた業界なんですよ、本当にどこも。かなり悪い意味で、グロテスクな鬼畜な業界です。もちろん甘くありません。理不尽がまかり通り、ニセモノが売れ、人間関係、政治や権力が絡むなどなど、何か好きなことにピュアであればあるほど心が後退りしていってしまうようなそんな世界が、これから広がっていると思っていてください。なかなかパンチの効いた業界です。どこもそうです。皆さんも必ずしんどくなります。自分の好きなこと、好きなものを好きであればあるほど、必ずしんどくなります。そして、ほとんどの人が挫折を経験することになります。今日のことを思い出してほしいです。
ぜひ、こだわりを持って突き詰めていってほしいなと思います。突き詰めてください。丁寧に全力で突き詰めていってほしいです。ナメた仕事っぷり、甘い考えは捨ててください。特に芸術の分野は結構、飽和状態だと。芸術以外の分野にも通じると思って、今ここにいる皆さんの属性を聞いた上で、この話をしています。なかなか飽和状態だと思います。挑戦者は多いし、そもそも入り口が広いし、そして先人がやり尽くしているし。と言ったように、なかなか難しい時代だなと思います。そして、まがいものが評価されます。ニセモノが売れる。さっきも言いましたが、まがいものがかなり評価されます。嫌な気持ちになります。お笑いで言うと、おもんないヤツが売れるとか、そういうことですよね。どの業界にもそういった現象は必ずあります。突き詰めてないヤツがポンと売れます。真摯に向き合ってないヤツがポンって仕事増えます。稼ぎます。いい位置に行きます。これは若いうちは特に、これから20代になっていく上で必ず起こります。競争ですから、かなりショックを受けると思います。ただ、そういうヤツらは必ず失速していきます。そして5年、10年、20年経っても、まだそのぬるい場所で適当に仕事をやるはめになります。長い目で見て、この突き詰めるという作業、これ非常にお得なんですよ。オススメです。本当に。ただあまり評価されにくいと思います。突き詰めていることの機微、真摯さ、熱量、これはあまり伝わらないんです。音楽で例えると、すごくこだわって突き詰めて頑張って1曲、曲を完成させて、世の中に出したら伸びないです。あまり聞いてもらえないです。そんなことより半分ふざけて作って、半分メロディーをパクって、わけの分からん歌詞にして、変な踊りをした方が売れるんです。突き詰めていない方が売れたりするんです。ただ、皆さんは突き詰めてください。そっちに行ってほしくないから。信じてください。絶対に長い目で見たら得しますから。
特に自分の立場でお話させていただくと、我ながらある程度の地位を固めました。僕は若くして自分は成功していると思っています。お笑いで天下を取るぞ、と意気込んで、お笑いを始めました。そして、お笑いで救えない人を救いたいという思いで音楽を始めました。結果がすごく出ているのは、もちろんお笑いの方で。かなり調子よくやらせてもらっていますが、そんな自分が今何を思うか、と。特に若いこれからの可能性しかない皆様の前で「何か話してください」と言われた時に自分が何を思うか。やっぱり長くこの仕事を続けたいなと思ってるんですよ。もちろん、まだまだ天下取りの途中やし、まだまだCDもっと売りたい途中ですよ。まだまだこれからも戦っていきますが、やっぱり長く続けたいなと思うんです。これって、ある程度才能があって、ある程度努力をして、ある程度結果が出せる人間やったら、必ずこの結論に帰着すると僕は思っています。長いことやってたらいろんなことがあるんです。調子の良し悪しがあるんですけど、できるだけ長く好きなことを続けたいなって思うんです。長い目で見て思うんです。突き詰めてください。長くやりたいなら突き詰めましょう。その真摯さ、丁寧さ、さっきは「あまり伝わらないんですけど」と言いましたが必ずどこかで評価されます。必ず良い方に転びます。信じてください。大丈夫です。
そして挫折してしまいます。ただ挫折という言葉を自分に適応していい人間も限られています。真剣に向き合って真剣に頑張ったヤツしか挫折は経験できませんから。その辺の若い学生が「挫折した」とか言うてんのをプロの人間たちは冷めた目で見ています。「それ、挫折ちゃうがな。ナメんなよ」と思います。今から言う挫折は皆さんが、ひとしきり120%で頑張って真摯にピュアに向き合った結果、訪れる挫折のことと思ってください。挫折した時に「いや、俺って何やっけ?」「私って何がしたいんやっけ?」と思うことになります。「これって合ってるっけ?」「これ、俺今何してんの?」「これは音楽ちゃうくない?」「自分の好きなことか、これ?」と思う時が必ず来ます。「何してるんやろ、自分」って、それは結果が出なくて、そうなります。迷います。とにかく迷います。「やめかな」と思うんですよ。いい心が病むんですよ。「もうエエかな」と思うんです。理不尽すぎて、気色悪すぎて。そういう環境が、うじゃうじゃとうごめいています。そんな時に「違う。俺は音楽が好きじゃないか」と「デザイン、ファッションが好きじゃないか」と「ケーキが好きじゃないか」「アニメが好きじゃないか」「美容が好きじゃないか」「ゲームが好きじゃないか」と自分の好きなもの思い出してください。目の前に立ちはだかる理不尽を自分の好きという熱量だけで超えていけるやつだけが成功します。いいですか。そして、その熱量が最高潮に高まっている瞬間は後にも先にもこの100年の人生の中で、今日2026年4月7日です。いいですか。大切な門出の入学式に皆さんにこういう話をできて非常に僕は幸せやと思っています。こんな機会いただいて、ありがとうございます。必ず今日の期待と希望に満ちた純度の高い自分の気持ちに救われる時が来ます。何かあったら皆さん、今日のこの瞬間のこと思い出してください。入学おめでとうございます。ありがとうございました。
現実は厳しいものであると伝えた上で、その厳しい世界で生きていくための心構えを説く粗品さん。大きな愛を感じます。クリエイティブな業界で生きていく人たち向けの話ですが、どのような業界でどのような仕事に就くにしても、多かれ少なかれ、仕事にはクリエイティビティが求められます。あらゆる業界の、あらゆる立場にいる人に通用する、普遍的なメッセージだと感じました。端から端までまったく隙のない素晴らしいメッセージだと思いましたが、僕が特に好きなのが以下の3点です。
①期待と希望に満ちた純度の高い自分の気持ちに救われる時が来ますので、思い出してください。
スピーチの最初と最後に登場する言葉です。国語の授業で習った通り、最初と最後に登場する言葉は、明らかに最重要です。「初心忘るべからず」的なことは、入学式や入社式ではよく言われることですが、形式的に言われることが多いですよね。粗品さんはそれを知りつつ、スピーチの予定調和を破壊しようとしているように感じました。ここで感銘を受けたのは、「挫折している未来の自分を救ってくれるのは、自分の初心である」というメッセージです。家族や友人や先輩ではなく、自分。自分の初心が、いずれ自分を救う。派手さはありませんが、とても本質的で深いメッセージだと受け取りました。粗品さんとしては、競争の厳しい世界で生き残っていくために、原点の思いを持ち続けることの価値を何としても伝えたかったのではないでしょうか。結局そこしかないんだよと。
②突き詰めてください。
物事を突き詰めることの重要性を説いています。一見遠回りのように見えるが、できるだけ長く好きなことを続けたいのであれば、それが一番コスパもタイパもいいというのが粗品さんの主張で、説得力がありますよね。突き詰めるとは、自分が本当におもしろいと思うことを追求し続けること。自分が本当にやりたいと思うことをやり続け、どこまでも磨いていくということでしょうか。突き詰めていない人が売れることはよくあるが、それは長続きしません。芸能人やアスリートの浮き沈みを見ていると、本当にそうだなと思いますよね。僕が所属しているコピーライターの世界も同様です。若い頃にパッと売れても、その後消えていく人のいかに多いことか。逆に、ずっと鳴かず飛ばずだった人がベテランの年代になってからブレイクしてその地位をキープし続けているケースのいかに多いことか。好きなことを永遠にできるわけではありませんが、好きなことですからできるだけ長くやっていたいものです。であるからこそ、突き詰めていない人のブレイクに惑わされて、今売れるために、売れそうなことをするのではなく、自分が本当にやりたいことをやり続けてくださいというメッセージです。コピーライターを25年以上やっている僕も、身につまされる思いがしました。
③目の前に立ちはだかる理不尽を自分の好きという熱量だけで超えていけるやつだけが成功します。
日本は成熟社会です。人口が減っていき、マーケットは縮小していきます。いいものをつくればどんどん売れるという昭和的な時代は、二度とやってこないでしょう。新しいマーケットを創造するベンチャーマインドのある人以外は、必然的に、飽和状態のマーケットで勝負していくことになります。そこでイノベーティブなものを生み出せる人はごく一握り。理不尽がまかり通り、ニセモノが売れ、人間関係、政治や権力が絡むなどなど、好きなことにピュアであればあるほど心が後退りしていってしまうような世界が広がっていると、粗品さんは言います。これは芸術分野に限ったことではなく、あらゆる分野に当てはまるのではないでしょうか。そこでほとんどの人が挫折し、「もうやめようかな」と思います。ここで「ひとしきり120%で頑張って真摯にピュアに向き合った結果、訪れる挫折」と、挫折の定義をしているあたりも、さすがだなと思いました。世間一般で言われる「挫折」は、プロからしたら挫折ではないと。さてそんな時に、思い出せるかどうかが勝負の分かれ目です。「俺は音楽が好きじゃないか」「デザイン、ファッションが好きじゃないか」「ケーキが好きじゃないか」「アニメが好きじゃないか」「美容が好きじゃないか」「ゲームが好きじゃないか」と、自分の好きなもの思い出せた人だけがそれを継続していけるし、そして成功できるのだと。「成功します。」と言い切っているところに、粗品さんの愛を感じます。厳密に言えば「成功する確率が高まります。」だと思うのですが、ここは「成功します。」と言い切ることに意味があると判断したのでしょう。近しい言葉に、「努力は好きに勝てない」というがありますが、「好き」は人間のモチベーションの中でも最強の部類に入りますよね。ただその気持ちを忘れてしまいがちなのが、人間の難しいところなのですが。
M-1とR-1の2冠を達成し、漫才師としてもピン芸人としても頂点を極めた粗品さん。最近では賞レースの審査員としても話題ですよね。いわば言葉のプロ中のプロであり、話の構成と言葉のチョイスに圧倒されます。映像のないテキストだけでこの迫力です。これに粗品さんの声色や間の取り方が入ってくるわけですから、会場で聞いていた人たちが受けた衝撃はいかほどだったでしょうか。うらやましいです。粗品さんにオファーを出したバンタンの先生方も嬉しかったのではないでしょうか。新入生向けのメッセージでしたが、53歳の僕の心にもザクザク刺さりました。普遍的なメッセージを発信してくださった粗品さんを心からリスペクトするとともに、このメッセージが少しでも多くの人に届くことを願っています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。粗品さんのような天才的な話術はなかなかマネできませんが、スピーチ原稿は基本的な考え方とスキルを身につければ、誰でも書くことができます。よろしければ、スピーチ原稿を書く僕を助けてくれる本5冊。もあわせてお読みください。あなたの人生にとって少しでもプラスになる情報をお届けできたらうれしいです。ではまた。
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